漢方薬の原料(生薬)は天然に存在する草や木、動物や鉱物などから作られます。自然の素材が持つ力(効能)によって、体が本来備えている力(治癒力)に働きかけ、全身の臓器・神経・液性因子のバランスを整えることで症状や体質を根本的に改善していくことが漢方治療の目的です。
抱えている症状について医療機関で血液検査や画像診断を行っても異常が認められず、原因の特定ができない症状、体質が影響している症状には漢方薬が有効なことがあります。
一人一人の体質や症状に合わせて治療薬を選ぶことになりますが、比較的早く症状が改善する場合もあれば、効果が現れるまでに時間が掛かることもあります。体の反応を確認しながらじっくり向き合うことが大切です。
また、複数の漢方薬を服用すると漢方薬同士の相性によって効果が期待できない、あるいは副作用の可能性が高まることがあります。既に、使用されている漢方薬がある場合には診察の際にお知らせ下さい。
頭痛、発熱、咳・痰などの諸症状。風邪の初期には細菌やウイルスの繁殖を防ぐため体を温め、発汗を促すことが重要です。葛根湯やインフルエンザの際の麻黄湯が有名ですが、体力のない方で発汗が難しい場合には体質を考慮した漢方を使用します。
風邪を引いた後に長引く咳のことを言います。なかなかスッキリしない咳や痰が対象です。ただし、肺炎や咳喘息などが隠れていないか胸部X線や呼吸機能検査で確認が必要です。
喘息、咳喘息は吸入ステロイド薬や気管支拡張薬、抗ヒスタミン薬が必要なることが多いです。アレルギー素因を持っている方で、喘息など明らかな診断に至らない症状(アトピー咳嗽など)が対象です。
精神的なストレスが咳の原因になることがあります。原因となるストレスを避けることが最優先ですが、漢方薬を使用することもあります。
心臓がドキドキする、脈が飛ぶような感じがするといった症状です。24時間ホルター心電図で危険な不整脈がないことを確認の上、軽微な不整脈あるいは不整脈はないが心臓の鼓動を強く感じる(心悸亢進)などの場合に漢方薬を使用します。緊張する場面での動悸や就寝前の症状などにも使用することがあります。過度の疲労や精神的なストレスが影響しますので、生活環境の工夫やご自分に合ったリラックス法を見つけることも重要です。
起立した際や長時間立っていた後にめまいや動悸、失神を来すものです。自律神経の調節の乱れによって血圧の低下・脳血流の低下が起こり、症状が強い場合には意識を無くし倒れてしまうこともあります。思春期のお子さんに多いですが、成人でもみられ、遺伝的な要因も認められます。自律神経の働きを整える漢方薬や緊張を和らげる漢方薬を使用します。過度の疲労やストレス、慢性的な運動不足も原因となりますので、日常生活の取り組みが必要です。
静脈には逆流を防止するための弁が備わっていますが、特に足の静脈は重力に逆らって心臓まで血液を戻すために、弁の働きに異常が生じると容易に血液がうっ滞します。静脈内に過度の血液が溜まり、瘤(こぶ)状に膨らんだものを静脈瘤(りゅう)と言います。足が重く、だるい、浮腫むなどの症状があれば水分バランスを整える漢方薬で症状の改善を図ります。重度の場合には外科的治療も検討が必要です。遺伝的な要因が大きいですが、加齢や過度の肥満でも起こりますので、肥満傾向で足がむくみ易い方はご注意が必要です。
食後の胃痛や胃もたれ、起床時の胸やけなどの症状です。診断としては、急性胃炎、慢性胃炎、逆流性食道炎などが含まれます。胃酸過多の場合には胃酸を抑える薬(代表薬はガスターなど)を使用することが多いですが、薬を止めると再発する場合には胃の粘膜を修復する漢方薬を併用あるいは切り替えて再発を抑えます。食事環境や睡眠時間が影響しますので、胃腸に負担のかからないような生活の工夫も必要です。
念のため、上部消化管内視鏡検査でガンや潰瘍などの異常がないことの確認をお願いしています。
原因は多岐に及びますので、消化器系および神経系などに疾患がないことの確認が必要です。特に原因が認められない場合には、食欲や活気を増進する漢方薬を使用します。
腸の動きは自律神経(副交感神経)によって調節されています。不規則な食事や運動の不足、ストレスなどによって自律神経の乱れが生じると、腸の蠕動運動が正常に行われず便が停滞し易くなります。便が停滞すると腸管壁から過度に水分が吸収され、便は硬くなり、腸管内でスムーズに移動できなくなると便秘に至ります。原因となっている生活習慣の改善が重要ですが、整腸作用のある漢方薬と便を柔らかするマグネシウム製剤を併用します。また、便意を我慢する習慣があると直腸に便が溜まり易くなりますから、普段から便意を感じたら早めにトイレに行く様にして頂くと良いです。
市販の刺激性便秘薬は一時的に使用するのであれば問題ないですが、長期間連用すると効果が減弱し内服量が増えて、薬がないと排便が困難になります。また、腸管の過度の収縮による腹痛を生じることもあります。既に、市販の秘薬が手放せないという方はご相談下さい。漢方薬を併用し、徐々に市販薬の使用量を減らしていきます。
軟便が4週間以上続く場合に慢性下痢症と診断されます。不規則な食事や運動習慣、精神的なストレスなど多くの原因があります。腸管の機能異常により腸管壁から水分の吸収が十分に行われず、水分が多い状態のまま直腸に到達し軟便となります。浸透圧性下痢、滲出性下痢、蠕動運動性下痢、過敏性腸症候群などいくつかの病態がありますので、病態に合わせた治療が必要です。蠕動運動性下痢や過敏性腸症候群に対して漢方薬をします。
慢性便秘も同様ですが、大腸内視鏡検査で炎症性疾患や腫瘍などがないことの確認が必要です。
いわゆる「イボ痔」のことです。肛門周囲の皮下静脈叢がうっ血して、イボ状に腫れるものを言います。軟膏や注射薬のほか、外科的治療を行うこともありますが、小さいものであれば漢方薬も効果があります。便秘など排便時に肛門への負担がかかることが原因ですので、便秘を予防することも大切です。
口腔内の粘膜に起こる炎症を言います。疲労やストレス、睡眠不足、栄養状態や感染症、外傷などが関与すると考えられていますが、明らかな原因は分かっていません。軟膏や調布薬がありますが、漢方薬も効果的です。食事に関しては、ビタミンB2・B6、ビタミンCが不足すると口内炎になり易いと言われますので、普段の食事の工夫が必要です。それぞれのビタミンはブロッコリー、大豆、ピーマンなどが該当します。
個人差はありますが、およそ45歳~55歳くらいの閉経前後の期間を言います。卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が急に減少することにより、これまでエストロゲンによって調節されていた機能が上手く働かなくなります。ホルモンバランスの乱れは自律神経にも影響しますので、動悸や顔面のほてり(ホットフラッシュ)、頭痛・腰痛、めまいや耳鳴り、精神不安、皮膚や粘膜の乾燥など全身に様々な症状を引き起こします。疲労やストレスが症状を悪化させますので、漢方薬の服用だけでなく、規則的な運動や睡眠環境の工夫、精神的ストレスを減らすことも重要です。
なお、症状の強い場合には婦人科系の疾患が関与していないことの確認が必要です。ホルモン補充療法(HRT)が必要になる場合もありますので、婦人科での検査をお願いしています。
月経の3~10日前に生じる精神的・身体的不調を言い、月経の始まりと共に軽快・消失します。情緒不安やイライラ、抑うつ、睡眠障害、めまいや倦怠感、腹痛、腰痛、頭痛、むくみなど様々な症状が起こります。卵胞ホルモンと黄体ホルモンの変動が一因ですが、明らかな原因は分かっていません。自律神経・内分泌系に作用する漢方薬を使用します。ストレスも影響しますので、上手な気分転換やご自分のリラックス法を見つけることも大切です。
典型的にはこめかみ~眼の奥にかけての片側(時に両側)の拍動痛(心臓の鼓動に合わせて脈打つ様な痛み)です。顔面の知覚神経の三叉神経の炎症や脳血管の収縮・拡張が関与していると考えられていますが、明らかな原因は不明です。女性ホルモンの変動も原因の一つと考えられていますが、男性にも起こります。市販の頭痛薬を頻繁に使用する方の場合には、薬の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)に注意が必要ですので、漢方薬を試して頂くと良いかと思います。過労やストレスが誘因となりますので、普段から疲労やストレスを溜めないことが予防に繋がります
念のため、頭蓋内の疾患がないか頭部MRIで検査が必要です。
めまいは大きく分けて、「回転性めまい」と「動揺性めまい」があります。回転性めまいは文字通りグルグル回っている様に感じるもので、動揺性めまいは波に揺られてフラフラ、グラグラする様に感じるものです。回転性めまいの原因は、頻度としては耳鼻科疾患が大半です。その他、脳や眼が原因のこともあります。動揺性めまいは脳や頸椎、精神的要素(抑うつ)、過度の血圧低下によるものなどがあります。原因検索のために各領域の検査を行って頂くことが必要ですが、原因が明らかでない場合には症状の軽減のために漢方薬を使用します。
また、年配の方に多くみられるフラフラ感は、脳や耳を調べても原因が特定出来ないことが多く治療が難しい場合があります。原因となる疾患がないことを確認した上で上手に付き合っていくことになりますが、漢方薬が有効なことがありますのでご相談下さい。
自律神経は、交感神経と副交感神経と二つの神経で構成されており、血圧や呼吸、体温や消化・排泄など身体のあらゆる機能を支配している神経です。普段は非常に巧妙に調節されていますが、いったんバランスが崩れると全身に様々な症状(倦怠感、めまい、動悸、血圧変動、のぼせ・冷感、便秘・下痢など)が起こります。症状の出方は人によって異なり、いくつもの症状が同時に起こることもあります。食習慣や運動習慣、ストレスや疲労の程度、睡眠状態が影響しますので、身体に過度に負担がかからない様に生活環境の工夫が重要です。自覚症状が強い場合は自律神経を整える漢方薬を使用します。
精神・神経、婦人科疾患などが関与していることもあるため、検査を必要とする場合があります。
肋骨に沿って走る神経が肋間神経ですが、この神経が前胸部や脇腹、背中にかけて鋭く痛むものを言います。脊椎の疾患や帯状疱疹などが原因のこともありますが、原因が明らかでないものに対して鎮痛効果のある漢方薬を使用します。市販の鎮痛薬も有効です。
適切な診断のもと西洋薬での治療が原則ですが、認知症の周辺症状(イライラや不安などの神経興奮状態)に対して鎮静効果のある漢方薬が使用されます。
検尿で細菌が確認される場合は抗生剤を使用しますが、細菌が検出されなくなった後も下腹部の違和感、排尿時痛や残尿感、血尿が続く場合には膀胱粘膜の性状を整え、止血作用のある漢方薬を使用します。
シップや鎮痛剤を使用することが一般的ですが、患部の血行を改善し、腫れや痛みを和らげる漢方薬があります。
整形外科での診断・治療が前提です。特に、転倒などの外傷後の腰痛、安静時の腰痛、臀部(おしり)や足まで痛みや痺れがあるものは原因の確認が必要ですので、整形外科への受診をお願いします。原因の明らかでない慢性腰痛に対しては、痛みの軽減を目的に鎮痙・鎮痛作用や血行を促進する作用のある漢方薬を使用します。
整形外科での診断・治療が前提で、重度の場合には人工関節置換術が必要です。症状軽減のために筋肉や骨を強くする漢方薬を併用します。
原因は様々ですので、血液検査や画像診断で疲労感の原因となる異常がないことの確認が必要です。検査を行っても原因が明らかでない場合には、活気を補う漢方薬や胃腸の働きを整えて食欲を増す漢方薬を使用します。過度の疲労やストレス、睡眠不足などによる自律神経の乱れも影響しますので、休息や睡眠時間の確保などで心身共にリラックスが必要です。不規則な食事による消化器系の負担が原因のこともあり、食事環境の見直しも考慮します。また、筋力・体力も影響しますので、定期的な運動で日頃の体づくりを行って頂くと良いです。
体質的に太りやすい・太りにくいという個人差はありますが、どなたでも摂取カロリーが過剰になれば体重が増えます。難しいのは、栄養摂取必要量にも個人差があるため、1日何キロカロリー摂取すれば丁度良いのか事前に分からないことです。日によって活動量(消費エネルギー)も異なりますから尚更です。言えることは、摂取カロリーを減らしても体重が減少しないのであればまだ摂取量が多い、体重が減るのであれば摂取量が少ないということです。従って、実際にダイエット(精製した糖や脂質を減らし、野菜類を中心とした食事)を行って頂き、どの程度まで食事を制限したら体重が減少し始めるかの目安を知っておいて頂くと体重をコントロールし易くなるかと思います。
現代は、高カロリー食品(精製糖や脂質を多く含む食品)が多くなり、身体活動量が減少しているため、もともと体質的に体重が増えないという方を除いて肥満になり易い環境と言えます。肥満は高血圧症や糖尿病、心疾患、脳卒中、肝機能障害や痛風、ある種のガンの発症リスクを高めますので、普段から体重管理に気を付けておいて頂けると望ましいです。高カロリー食品を避け、定期的な運動を続けて頂くのが原則ですが、過剰な内臓脂肪蓄積に対しては防風通聖散を使用します。
こむら返りの「こむら」とはふくらはぎのことを指します。ふくらはぎの筋肉が異常に収縮し痙攣することです。筋肉の収縮を感知する腱紡錘のセンサー機能が低下することによって起こると考えられています。普段から筋肉をよく使い、ストレッチなどで筋肉をほぐすことが腱紡錘のセンサー機能にとって重要です。ミネラルや水分のバランスも影響しますので、野菜や果物、海藻類の摂取、水分補給も大切です。漢方薬は即効性のある芍薬甘草湯が有名です。
「冷え」には、自律神経や筋肉、心臓の働きが関与していると考えられています。自律神経は血液の流れを調整していますので、自律神経の乱れによって血行障害を起こすとその部位が冷たく感じます。手足だけでなく、お腹(内臓)が冷えることもあります。過度の疲労やストレスは自律神経を乱すため、休息や生活環境の工夫、上手な気分転換が必要です。自律神経の働きを整え、血行を改善する漢方薬を使用します。
筋肉は身体の中で最大の発熱器官ですから、筋肉量が減少する十分なエネルギーを作り出せなくなり全身が冷え易くなります。筋肉量は加齢と共に減少しますが、定期的な運動で出来るだけ筋肉量を減らさない様な工夫が必要です。可能なら若い頃から意識的な体づくりが望ましいです。
また、比較的稀ですが心不全や弁膜症など心臓の機能に問題があると、心臓から送り出される血液量が少なくなるため末梢の血行障害が起こります。また、下肢の動脈硬化性疾患が原因のこともあります。症状から疑わしい場合は検査を行います。
食べ物による影響もあります。冬に出回る根菜類、ニンニク・コショウなどの香辛料は体を温める働きがあります。冬に煮物などの温かい料理がピッタリなのは古くからの知恵なのでしょうね。反対に、夏野菜・葉物野菜は体を冷やします。冬には冬の、夏には夏の食材・調理法が体の調子を整えるのに相応しいということなのだと思います。
症状の強い場合は点滴や入院が必要ですが、軽症の場合には塩分と水分補給に加え、水分バランスを整える漢方薬を使用します。夏場に継続して服用することで予防効果もあります。
朝起きて、口が渇き、顔が浮腫んでいる時などには、水分バランスを整える漢方薬を使用します。水分も補給して下さい。飲酒の前に飲んで二日酔いを予防する漢方薬もありますが、飲み過ぎれば二日酔いになりますので、飲み過ぎないことが一番です。